Report
S’ACCAPAU + Gaggan
collaboration dinner
後編
Part 2
奏でる音と音でアツく語り合うように、グルーヴをたぐりよせ合うように。くるくると光おどるステージで、ミュージシャン同士が即興で繰り広げるジャムセッション。まずは、あの様子を思い浮かべてみて欲しい。そのノリがまんま、ミュージシャンが料理人にすり替わり、ステージが厨房にすり替わったなら……。
あの日は、まさにそう表現するにふさわしい夜だったのだ。
アジアが誇るガストロノミー界の奇才、タイ・バンコクの「ガガン」とのひょんな縁によって(前編参照)まさかの実現を果たした「サッカパウ」とのコラボレーションディナー。
後編では、その波乱(?)の様子をたっぷりとレポートしよう。
Imagine a jam session between musicians. They play groovy music like a conversation in the spotlight.
What if the musicians were chefs and the stage were a kitchen in exactly the same atmosphere.
There was such a night as this in a restaurant.
Through an unexpected connection (Please refer to ”S’accapau+Gaggan Part1”), S’ACCAPAU and Gaggan held a collaboration dinner. Gaggan is an Asian gastronomic prodigy located in Bangkok, Thailand. This time,
in Part 2, I will tell you everything about that eventful night.
午後5時。両店のスタッフがぎゅうぎゅうにひしめき、仕込みにいそしむ厨房が、にわかに騒がしくなった。どうやら開始が30分後に迫るこの期に及んで、事前に決めたコースメニューの内容が変わるというのだ。おそらく、さっき戻ってきた(ギリすぎる)買い出し先で、よさげな食材とアイデアを思いついてしまったのだろう。シェフのガガン・アナンド氏は、現場の混乱などどこ吹く風とばかりに、なんともうれしそうだ。
「サッカパウ」の田渕シェフと「ガガン」のスーシェフがすぐさま身を寄せ、異国の言葉で打ち合わせる。そして最後、合言葉のようにこうささやき合うのだった。
「セラ・ヴィ」(しょうがないね)「セラ・ヴィ シー」(そうだね)
とはいえ、現場は大慌て!事態を聞きつけたサービススタッフも、お客さまへの説明をあぐねていると、田渕シェフがこう言い放つ。
「俺らもわからない。彼らもわからない。お客さんにも、それを伝えればいいから!」
田渕シェフは言う。
「うちのスタッフは疲れた顔してましたけど(笑)ガガンのスタッフは『いつものことだよ』と笑ってましたね。こうした予想外のことが起こっても慣れてますし、すぐに対応できる。それはスタッフみんなのレベルが高い証拠。余裕がないと、こんな風に臨機応変にできないですから。私はすごく楽しかったです」
さらに、笑ってこう続ける。「事細かくきめられたことを演奏するクラシック音楽ではなく、ジャズのセッションみたいで」それは、明らかに彼のシェフ魂に火をつけたようだ。
At 5 p.m. the kitchen was crowded with chefs from both restaurants, preparing for the meal. Just 30 minutes before the start time, it was announced that the planned course menu would be changed.
Mr. Tabuchi told them, “I don’t know and Gaggan’s team doesn’t know either. You can just say that no one knows the details, but some of the menu could change.”
さて、客が続々と集まりだしてきた。顔ぶれはフードジャーナリストから、サッカパウに足繁く通うワイン通まで、東京を代表するフーディーズたちがずらり。「あの」ガガンが何をしでかしてくれるのだろう。期待に胸は膨らみ、目はらんらんと輝いている。
ふるまわれる全10品のコース料理は、ガガンとサッカパウが交互に担当。またペアリングのワインは、互い違いのソムリエが受け持つ。つまりこれは、予定調和は許されないという、覚悟の意思表示でもある。
「シェフ、用意はいいか?」「ハイドー!」
この言葉を合図に、第一部のディナーが始まった。
The dinner course consisted of 10 different dishes. Each dish would be prepared by Gaggan and S’ACCAPAU alternately. Each wine paring would be handled by a sommelier from the other establishment. This meant that no one could plan anything in advance.
“Are you ready chefs?” “Yes!” The first part of the dinner had just begun.
まず供されたのは、ガガン・クラシックとも言える「Yogurt Explosion(ヨーグルトの爆発)」と称した一品。艶めく白いものをスプーンごと口に放り込むと膜が弾け、ヨーグルト、ブルーチーズ、トマト、チリオイル、バルサミコ、ケッパーなどが混在する液体がジュワッと流れこむ。
これにサッカパウのソムリエ、梁さんがぶつけてきたのが、ドメーヌ・ルイス・コランが2006年にたった1度だけ作ったという、幻のシャンパン。両者、容赦はしないぜ!とばかりに、のっけからぐいぐい攻めてくる。
続いてサッカパウからは、生のベビーオイスターと甘エビ。あたかも日本庭園を思わせるプレート上の演出が美しい、“らしい”料理だ。
その後も、くじらのタルタル、黒にんにくなど珍しい日本の食材でガンガン推しまくる。とりわけ、泳ぐように盛り付けられた鮎の姿焼きは、ガガンのスタッフも感嘆し、こぞってケータイのカメラを構える。
しかし、さすがなのはガガンのソムリエ、ウラジミール氏。一度も食べたことのない食材でも、少ない情報から、ちゃんと合うワインを当ててくる。しかもそれを楽しんでいるようすがひしと伝わってくる。
Ulysse Collin produced only one time in 2006.
一方、ガガンは窒素ボンベを使ったり、4日かけて茄子をフリーズドライにしたり、スイカを圧縮させたり。アプローチこそアヴァンギャルドながら、味わいは日本人のツボを心得た着地。こと、そうめんをカッペリーニよろしくアルデンテに茹で、ココナッツカレーソースを絡めたパスタにイクラをのせ、シークゥワーサーを添えた一品は、おいしい!という声がほうぼうから沸き起こっていた。
また、ある客がポツリと「フェスのよう」とつぶやくように、いつものサッカパウと違うのは、その圧倒的な賑わい。とくにガガン氏がテーブルにやって来るとさらにヒートアップ!「だいたいこういう時には、日本語で“カンパイ”っていうんだよ。知ってた?」「今日のインスタのハッシュタグは_“SAGGAPAU”(SACCAPAUとGAGGANを掛け合わせた造語)ね!」など、ジョークを飛ばし、場を沸かせる。
カウンター内のオープンキッチンに目をやると、ガガンのスタッフがキビキビと、かつ優雅に動いている。彼らはサッサと手を動かす一方で、談笑に興じたり、ワインの試飲をしたり。またマイスプーンをエプロンからチャッと取り出して味見をし、チャッとしまうさまは、まるで西部劇のガンマンのように余裕でかっこいい!
「楽しみながらやっている感じが伝わってきますね」というのは、あるカウンター客。そう!食べることは、もはやエンタテイメント体験であるということを、彼らのようすを見ていると、まざまざと感じさせてくれる。
あっという間に過ぎた2時間。すべてのコースを終え、頬を上気させたオーディエンスたちのコメントをもらった。
「クリエイティブな時間を楽しませていただきました。思っていた以上においしい料理がたくさんあって、テンポよくいただけました」
「もっとエキセントリックな料理が多いという噂を聞いていたんですけど、そこからすると……ほんっとにおいしかった。予想以上に満足できました」
「スパイスの使い方がやっぱりすごいなと。あと個性的なワインが多くて面白かったですね。まさにイベントならでは!」
「ふたりのソムリエさんが、それぞれ違う感じがしました。(サッカパウの)梁さんは料理とワインを溶け込ませて、ソースのようにひとつになる感じ。(ガガンの)ウラジミールさんは両方の良さを引き上げてくれて、対等に盛り上げてくれる。ソムリエによってペアリングの到達点が違うんだなということを学びました」
また最後に田渕シェフに今夜の感想を聞いてみよう。
「まったく彼はインド料理をやろうとしているわけじゃないですよね。パスタもそうですし、リゾットも面白いし、インド料理という枠ではくくれない、他にはないもの。僕もイタリアがバックグラウンドですけれど、完全にオリジナル。カテゴリ分けするのは、ナンセンス。それはもはや世界的な流れになってきていると思います」

Profile
ガガン・アナンド / Gaggan Anand
コルカタ出身。
若かりし頃は音楽に興味を持ち、その後料理人へ。
バンコクのモダンインディアン【Red】をはじめ、スペイン【エルブジ】で研鑽を重ねる。
2010年に【Gaggan】をオープン。
2015年~2017年にかけては【アジアのベストレストラン50】で3年連続頂点。
2017年には【世界のベストレストラン】では7位にランクイン。
Born in Kolkata, India
Anand’s youth passion was in music and later he pursued his career as a chef.
Anand trained at numbers of highly acclaimed restaurants including “Red”, modern Indian cuisine in Bangkok, and legendary “El Bulli” in Spain.
Anand opened “Gaggan” in Bangkok in 2010.
“Gaggan” continuously awarded for the No.1 restaurant in Asia by Asia’s 50 Best Restaurants from 2015 to 2017.
“Gaggan” ranked No.7 on World’s 50 Best Restaurant in 2017.